アメリカが、ファーウェイ(Huawei)に過剰に反応するのはなぜ?
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「工作機械」と「国家安全保障」

 

 前回のコラムで、「強いものづくりの背後には、必ずといってよいほど強い工作機械産業が存在し、縁の下の力持ちとして支えている」と述べました。

 

 つまり、工作機械産業は目に見えないところで戦略的な重要性を持っているということです。そして、それは国家の安全保障との関係においても同様です。言い換えれば、工作機械産業の技術水準は、国家の安全保障にまで影響を与えるということです。

 

「工作機械と安全保障」と聞いて、何かを思い起こす方はいらっしゃるでしょうか。

 

 多くの方の記憶に残っている一つの事例に、1987年に発覚した東芝機械の「ココム違反事件」があるのではないでしょうか。

 

 ココム(COCOM:Coordinating Committee for Export Control)とは、冷戦時代に共産圏向けの輸出統制のために発足した機関で、そこで禁輸出品リスト(「ココムリスト」と呼ばれる)を作成して、共産圏との貿易を監視下に置いたのです(ただし、冷戦の終結によって現在は廃止されています)。

 

 この事件は、主要工作機械メーカーである東芝機械が、ココム協定に違反して禁輸出品リストにある、高性能で高精度のCNC(Computer Numercial Controller、コンピュータ数値制御)工作機械をソ連に輸出したとされる事件です。ソ連はその崩壊しましたが、当時は米国との冷戦の真最中でした。

 

 米国は、ソ連がこのCNC工作機械を使って低騒音の潜水艦スクリューを作れるようになり、結果として西側の安全保障が脅かされたと主張したのです。潜水艦のスクリューは工作機械で作られるため、高性能の工作機械を使えばスクリュー音を減らせるような新型の羽を作ることが可能になります。

 

 この問題は日米間の政治問題にまで発展し、親会社である東芝の社長が辞任することで決着しましたが、これは、工作機械技術が国家の安全保障にまで影響を与えることを示した一件でもあります。

 

 そして現在、技術と安全保障の関係は、潜水艦などの目に見える軍需品からサイバー空間にまで拡大しています。サイバー空間では、民生品と軍需品の境界を明確にすることは難しく、技術と安全保障の問題は一層複雑になりがちです。

 

 それは、中国の通信機器メーカーであるファーウェイに対する米国政府の最近の反応をみれば、そのことはよくわかるでしょう。

 

 その中で確実にいえることは、ファーウェイのスマホを作るのにも、やはり工作機械が必要だということです。アップルのスマホを作るのに日本製の工作機械が使われているように、ファーウェイの場合も、先進国から輸入した工作機械が使われているはずなのです。

 

 中国企業は、高性能な工作機械を作る技術はまだ持っていません。

 

 このコラムで後に触れますが、中国政府は現在、「製造大国」から「製造強国」への転換を目指しています。実際、中国は2015年に「中国製造2025」という製造業強化戦略を打ち出しています。そこでは重点10分野を定めているのですが、その中には、半導体などの次世代IT産業、自動車産業、先進的な高速鉄道や航空・宇宙産業に加えて、工作機械産業も入っているのです。(つづく)

※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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