ryomiyagi
2020/12/05
ryomiyagi
2020/12/05
『オルタネート』
新潮社
「これまで“ジャニーズが書いているんだろ”と思われたくないとか、作家としてナメられたくないというような意地みたいなものがありました(笑)。でも30歳を過ぎて、肩に入っていた力がいい意味で抜けたような気がします。書き手としての自信が多少なりともついたのかもしれませんが……」
3年ぶりに、6冊目になる長編小説『オルタネート』を発表した加藤シゲアキさん。いうまでもなく、加藤さんはジャニーズ事務所の男性グループ・NEWSのメンバーで、歌手であり役者であり作詞・作曲も行う才能豊かな方。執筆に至った経緯を、言葉を選びながら静かに語ります。
「小説を書くときは自分がこれまでやっていないことにチャレンジしたいと考えています。今回、連載にあたり編集の方から青春恋愛モノはどうかとご提案いただきました。実はこれまで、ガッツリ恋愛をテーマにした青春小説は書いていなかったんです。というのも、僕の中に“人の恋愛話なんか読んで何が面白いんだ”と思っていたところがありまして(笑)。それに僕が書くと、フィクションであっても僕自身の実体験としてトレースされてしまう可能性もある。それではつまらないという気持ちがありました。それらが重なり、恋愛小説そのものに抵抗があったんですが、一方で恋愛を書くなら若い読者に読んでほしいという気持ちもあって……。
30歳を過ぎて、だんだんと高校生が遠くなってきたと感じていました。年齢を重ねてしまうと感覚が離れていって若い人を主人公にした小説を書くのは難しくなるかもしれないとも思いました。それで、チャレンジするなら今だ、と」
舞台は、高校生限定のアプリ「オルタネート」が必須の時代の東京。「オルタネート」は、ユーザーが指定した条件に合わせて相性のいい人を紹介する機能やSNS機能を持つ高校生必須の人気アプリです。「オルタネート」を使わない円明学園高校3年の蓉は料理部の部長で、ライブ配信される料理コンテスト「ワンポーション」での優勝を目指しパートナーを探していました。同じ高校の1年生・凪津は母子家庭で育ち、母親に複雑な思いを抱いている「オルタネート」信奉者です。大阪の高校を中退したため「オルタネート」が使えない尚志は、同校に通うかつてのバンド仲間を探して単身上京し、アーティストが集まるシェアハウスで暮らしていました。物語は3人を軸に、出会いと別れ、不安と焦り、挫折と成長を描きます。
「僕は人からあまり褒められたことがなくて……でも、書くことは好きで、高校時代には文章を書く授業で花丸をもらってうれしくなり(笑)、大学時代には映画の脚本も学びました。フィクションを書きたいという持て余すエネルギーがあって1作目を書いたわけですが、その際、本が読者の手元に届くまでこんなにも多くの方が関わってくださり応援してくださっていると知ったんです。片足を突っ込んだ以上書き続ける責任があると考えています。今回の小説は現代の高校生を書いているのでマッチングアプリや動画サイトなど今どきのツールを登場させましたが、多感で同調圧力や閉塞感に悩み、将来への漠然とした不安があるというような高校生が抱く思いは、時代を超えて普遍的だと思っています。そこを書いたつもりです」
アイドルが書いた小説ととらえるのは大間違い。ページをめくるにつれ緊張感が増し、後半120ページの物語展開は圧巻で、いくつものドラマが重なり合う構成も、ヒリヒリするような心理描写も秀逸そのもの。読後に立ち上る温かさとすがすがしさに涙する傑作です。
おすすめの1冊
『平場の月』光文社
朝倉かすみ /著
「50歳になった、ごく普通の男女の心の隙間や情熱、生きる哀しみを描いた大人の恋愛小説。今回、執筆する際に背中を押してもらいました。主人公の2人が魅力的で引き込まれました。ラストが好きで何度も読んだ作品です」
PROFILE
かとう・しげあき◎’87年、大阪府生まれ。青山学院大学法学部卒。NEWSのメンバーとして活動しながら、’12年『ピンクとグレー』で作家デビュー。著作に『閃光スクランブル』『BURN.-バーン-』『できることならスティードで』など。トリプルAサイドシングル『ビューティフル/チンチャうまっか/カナリヤ』が12月13日発売。
聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。
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