2021/04/28
小説宝石
『もろびとの空 三木城合戦記』集英社
天野純希/著
本書の中ほどで、元別所家剣術指南役で、今は百姓をしている室田弥四郎の娘・加代が、別所家家臣で“死に損ない”の異名を持つ蔭山伊織に「一つだけ、聞いてもええですか?」「これを飲んで、お肉を食べても、うちは人でいられますか?」と尋ねるシーンがある。
伊織はこれに対して「俺も食った。それが罪だと言うのなら、それでも構わん。生きていれば、そのぶん罪は増えていく。それも、人というものだろう」と返す。
そして少女はこう言う。「あなたが背負った罪を、うちも背負います」と。
この一巻が、秀吉の三木城の干殺しを描いたものだと話せば、彼女が食したものが何であるかは自ずと知れよう。
これまでこの題材を長篇で扱ったものはなかった。短篇で書かれたものは、この干殺しの残忍性ばかりが強調されていたように思われる。誤解を承知で言えば、作者はむしろ、この状況を悠々たる筆致で描いている。そこから生まれるのは、救済のイメージである。それは題名の“もろびと”から生じる宗教的雰囲気と相まって、禁忌を犯したものたちへ、救いの手を差しのべている。
なぜかと言えば、彼らは、ある日突然平和な日常を奪われた者たちであり、令和を生きる私達、コロナ禍で、不条理な喪失を強いられた者たちと重なるからである。
この痛ましい籠城戦の中で、例えば、城主別所長治の叔父・吉親は、徹底抗戦を主張して、長治を幽閉する。が彼は、悪人ではない。それも哀れな人間の行為なのだ。
作者の人間に対する寛容な視点が、脈々と生きている傑作と言えよう。
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『追読人間臨終図巻II 文豪編』徳間書店
山田風太郎/原作、サメマチオ/著
天下の奇書を漫画化した好著
古今東西の著名人、九二三名の死に際を切り取った天下の奇書、山田風太郎の『人間臨終図巻』を漫画化したサメマチオの快作である。題名の頭にある“追読”とは、サメマチオ曰く、追って読んでね、ついでに読んでねを組み合わせた造語であるとの事。
一ページ一人という簡潔なスタイルで、しかも原作の肝である、長く生きることは幸せなのか、という問いかけははずしていない。
どこから読んでも面白く、原作を横に置いて読めばその面白さは倍加する。と共に、人生を考えさせられる好著である。
『もろびとの空 三木城合戦記』集英社
天野純希/著