2018/07/13
三砂慶明 「読書室」主宰
『ぼくの伯父さん』つるとはな
伊丹十三/著
■本棚からの招待状『ぼくの伯父さん』
読書が特別なのは、すべてがたった一冊からはじまり、本の内容はまったく変わらないにもかかわらず、同じときに同じ本を読んだとしても、その体験が読んだ人ごとに違うということだと思います。
俳優や商業デザイン、イラストにエッセイなど、手掛けた仕事でマルチな才能を発揮した映画監督、伊丹十三は、「読書」についてこう書いています。
「書物が私にとっては父親のかわりだったように思う。人生なにか問題がある時、私は解決の手がかりを書物に求めた。本好きの人間が本屋の書棚の前に立つと、必要な本はむこうからとび出してくる。本が私を呼んでくれるのだ。こうして私は多くの貴重な書物に出会った。書物なくしては私は、自分にも、妻にも、子供にも出会えなかったろう。」
伊丹十三記念館でこの手書きのメモをはじめて見たとき、ふるえました。私はただ本が好きで、目の前の本を読んできただけにすぎませんが、もしかして伊丹十三が私のために、この言葉を書いてくれたんじゃないかとすら思いました。
写真は撮れなかったので、学芸員の方にお願いして、メモをとらせていただきました。のちに、単行本未収録エッセイを集めた『ぼくの伯父さん』に収録されたのを知って、本棚の目につく場所に置いています。
数多くは紹介できませんが、ページを開くと世界が少し明るく見えるような、そのような本を、今後ご紹介していければ幸いです。
『ぼくの伯父さん』つるとはな
伊丹十三/著