2018/09/05
大岩 ヴィレッジヴァンガードららぽーと立川立飛店店長・百合部部長
『君だけが光』白泉社
シギサワカヤ/著
「君だけが光」は2つのストーリーからなる、シギサワカヤ先生初の百合作品集だ。
前半は結婚式を迎えた花嫁と、その結婚式場に勤める女性のお話。後半は、美術部の主人公とクラスの中心的な女の子のお話。
どちらも一度出会ったのちに時間を経て再び出会うという、長い期間の関係を描いたストーリーになっている。
今回は前半のお話について書こうかと思う。この作品は、先々月に取り上げたテーマ、「人妻百合」でもある。
物語は結婚式当日の花嫁が控室で仕上げをしてもらっているシーンから始まる。
花嫁姿の純香は、セットをしてもらった美砂にお礼を言うとともにキスをする。そこに「昔から どうしようもない女が好みでした」という美砂のモノローグが入るというドラマチックな始まり方だ。
「また会いましょ?」と屈託のない笑顔で控室をあとにする純香。今から結婚するというのに本当に恐ろしい女性である。そして何より、とても美しい。だから憎めないし、余計に怖いような気もする。
次の話では、新婚旅行に行けなくなった旦那の代わりに、ピンチヒッターとして美砂を誘い二人でモルディブへ。
ここでは五日間毎日飲んで、観光もしないと言う純香。それでいいんですか、と美砂に聞かれ、「いいんですかも何も、堕落するためにこんなとこまできたのよぉ?」と言う純香。モノローグでは、「天使みたいな悪魔の笑顔」と表現されている。冒頭で出てきた笑顔と同じような、美しさと恐ろしさが共存しているような笑顔だ。
作中にはベッドシーンが多い。シギサワカヤ先生が描かれる女性の体のラインがとても美しく、その曲線に見入ってしまう。
途中純香のセリフで、女性同士の体の関係について語るシーンがある。絵柄と相まってすごく印象的だったので引用する。
「全部しっくり来て気持ちよくて 抱くとか抱かれるとかどうだっていいんだもの」
というセリフだ。これを読んで南Q太先生の「あたしの女に手を出すな」という作品のモノローグを思い出した。
主人公たちがベッドで抱き合い眠るシーンで、「女同士の体ってほんとうにぴったりとあてはまる。」という文章が出てくる。純香の言葉は、それと何か通じるものを感じた。
二人は、本能的にもそれ以外の部分でも、互いが互いを必要としていることをあまり言葉には出さない。言ってはいけないような関係だからか。
敢えてはっきりとは言わずに視線や短い会話で交わされるのが、読んでいてたまらなくもどかしい気持ちになる。絶妙なバランスで成り立っている大人の関係だ。
そして純香の妊娠を機に、二人には別れが訪れる。
「お腹の子が貴女の子供じゃないのが少し…残念だわ…」と純香は言う。それはとてつもなく残酷であるが、彼女の口から思わず出た本心であり、素直に思ったことを言ってしまうところがやっぱり好きだな、と美沙は笑うのであった。
こんな美しい別れ方があるのだろうか。
また二人は時間を経て再会するのだが、お互いに「君」という光から離れてしまった彼女たちがどのようになっていくのか、そしてまたどうやって光を取り戻すのか。
この先はぜひ読んでいただきたい。
『君だけが光』白泉社
シギサワカヤ/著