ryomiyagi
2020/06/05
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2020/06/05
■『新座頭市物語 折れた杖』(映画 1972年)
製作:東宝/プロダクション:勝プロダクション/監督:勝新太郎/脚本:犬塚稔/原作:子母澤寛/出演:勝新太郎、太地喜和子、吉沢京子、大滝秀治、小池朝雄 ほか
シリーズ初の勝新太郎自身による監督作品だ。
舞台となる銚子の漁師町では、ヤクザの万五郎(小池)が借金で漁師たちを縛り、逆らう者は容赦なく殺していた。
そこに座頭市が暮らし始めたことで、両者は対立する。
演出家としての勝の狙いは、「座頭市の脳内のビジュアル化」だった。
目が見えなくとも、頭の中にはなんらかの具体的なイメージが浮かんでいるはず。それを映像化しようとした。
勝が画面に叩きつけたのは、座頭市の頭に巣食う悪夢的イメージだ。
老婆が吊橋から突然落ちて死ぬ冒頭に始まり、ヤクザたちに強制的に射精させられる知的障害の少年、ヤクザに頭を叩き割られて弟を殺された哀しみのあまりに海へ身を沈める女郎、万五郎に掌(てのひら)を潰され苦悶する座頭市、その血だまりに逆さに映り込む万五郎の微笑。死臭だけが支配する地獄絵図が、淡々と展開する。
「目の見えない男が想像した空間」を具現化するため、遠近感を狂わせ、ピントをぼかす。
色合いもモノトーンを基調に赤を所々に混ぜ込み、尋常でない。
全編を覆う不安定さは、観ていて酔いそうになる。
この安らげる逃げ場のない世界こそが、勝の想定した座頭市の心象風景だったのだ。
銚子へやってきた市は、遊女・錦木(太地)を身請けする。
この錦木を巡る二つの濡れ場に「勝監督らしさ」が滲み出ていた。
一つは物語の中盤に訪れる。訪ねてきた若い間男と錦木は激しく求め合う。
勝はこの場面を、ほとんどピントの合わない揺れ動く映像で映し出す。しかも全てがアップの画だ。
むさぼり合う唇、男の身体に絡みつく女の両股、背中をまさぐる指先……。
余計なものが映されることなく、男女の情欲の伝わるディテールだけが積み重なる。
そうすることで、観ている側を官能の世界から抜け出させないようにする狙いがあった。
もう一つは、物語の終盤での市との濡れ場だ。
市をヤクザたちに殺させるため、錦木は市に隙を作らせようと誘惑してくる。
潮騒と海鳴りだけが支配する海辺の小屋で錦木は市に絡みつく。
胸元に飛び込み、市の乳首を舐め、押し倒して耳を噛み、上に乗って豊満な肉体を揺り動かす。
妖艶な太地の痴態は、簾(すだれ)越しに映されている。
すると、観客は覗き見をしているような気分になり、劣情がより盛り上がる。
【ソフト】
東宝(DVD)
【配信】
アマゾンプライムビデオ、iTunesT
(2020年5月現在)
※アマゾンプライムビデオ は、アマゾンプライムビデオ チャンネルの登録チャンネル「時
代劇専門チャンネルNET」「シネマコレクションby KADOKAWA」「+松竹」「d アニ
メストア for Prime Video」「JUNK FILM by TOEI」「TBS オンデマンド」を含んでい
ます。
●この記事は、6月11日発売予定の『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
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