家づくりが始まった!
小澤典代『日用美の暮らしづくり、家づくり』

古い洋館の良さを活かした家づくり、まず初めに行ったのは……予想外なものも見つかった……!?

 

10月の、よく晴れた日曜日。浅川さん一家が購入した、二宮の土地の地鎮祭が執り行われ、私は、この儀式を拝見させていただくことになりました。初めて経験する地鎮祭だったので、神主さんの支度やお祈りに、日本人の持つ土地に対する畏敬の念などをみる思いがして大変興味深かったのです。

 

「鎌倉の家を建てるときにも地鎮祭は行いました。特に信心深いわけではないですが、目には見えない大きな存在については信じています。だから、そうしたものに対しての感謝の心や謙虚さは持っていたいと思っています。

 

地鎮祭の準備が始まった

 

自然に対する考え方と同様に、あやさんの暮らしや生き方の根底にある姿勢を、改めて認識した地鎮祭でもありました。そして、古いものへの愛着も、こうした考え方と繋がっているようです。

 

「最初に訪れたときボロボロだけれど残されていた、この洋館に惹かれたんです。ここを店にしたいなと、直ぐにイメージが湧きました。窓の形状やステンドグラスが素敵だし、中を覗くと真鍮の把手や蝶番もあって、そうした古いパーツなどに魅力を感じ、新築では得られない趣にグッときました」

 

この物件が建てられたのは70年以上前のこと。当時の持ち主はステータスのある方で、別荘として使用していたのだそう。葉巻を愉しむための専用室が設けられていたり、残されたままになっていたピアノや、たくさんのレコードからも、ゆとりのある暮らしと避暑地であった二宮が想像されます。

 

「大人の趣味を愉しむための家だったんだろうな、と思いを馳せてみるのは楽しいですよね。そうした散りばめられた過去の欠片を、これからの家づくりに生かしていく予定です」

 

人々の生きた証でもあるのが、ものという存在。暮らしのなかで使われ、主である人と時間を共にしてきたものからは、不思議ですが、温もりのような感覚を得ます。傍で時を経たことで、新品にはない何かを纏うのです。

 

「それに、今では技術的につくれないものや、素材としても貴重になっているものもありますよね。ひとつの文化として、大切に守り伝えていきたいと考えているんです。それから、こうした古いものに接すると「日用美」で扱うものも、こうでありたいと思います。100年先に、誰かが手に取って『これ、いいね』と、言ってもらえるようなものを紹介していきたいです」

 

大きな窓にはレースのカーテンの端が残る
ステンドグラスの窓に真鍮の取っ手
美しいタッセル

 

そしてもうひとつ、この物件には隠された部屋が見つかりました。

 

「洋館に連なるように建てられている日本家屋を解体しているとき、地下室があることを発見しました。最初の所有者が防空壕として使ったのではないかと思います。その後、燃料置き場にされていたようで、ちょうどお風呂と洗面室の下にあるので、配管を使って燃料を吸い上げていたみたいです」

 

当時の住人たちの歴史は、そのまま私たち日本人が辿ってきた時間でもあります。戦争があって、復興があり、高度経済成長もあった。良いときも、悪いときもある。そうした人々の人生に寄り添ってきた建物です。地下室への祈りを、神主さんがことさら丁寧にしていたように見えたのは、気のせいではないように思います。

 

「長い時間や、自然界のなかでは、私たちはちっぽけな存在。ほんの束の間、ここに住まわせていただくことになる。そのことへの許しを請うことは大切ですよね。かつて、ここに存在していたいろいろなもの、そして生きものたち。そこに思いを寄せることは大事にしたいです」

 

地下室への通路

 

こうして、いよいよ家づくりに向けたスタートを切ることになり、古い家の解体作業も本格的に始まりました。残す部分もあるため、一般的な解体とは違う作業になります。

 

「普通は、重機が入ってガチャガチャと何もかも壊すことになるのですが、今回は手壊し。再利用する瓦や建具、ガイシ(電気の配線に関する部品)なども丁寧に手作業で取り外していただきました。有り難く思うのと同時に、人の力の素晴らしさを目の当たりにしました。強くてやさしい、まさに手仕事の根本を見たと思います」

 

古い配線部品
地鎮祭

 

撮影/石黒美穂子

日用美の家作り

文/小澤典代

手仕事まわりの取材・執筆とスタイリングを中心に仕事をする。ものと人の関係を通し、普通の当たり前の日々に喜びを見いだせるような企画を提案。著書に「韓国の美しいもの」「日本のかご」(共に新潮社)、「金継ぎのすすめ」(誠文堂新光社)「手仕事と工芸をめぐる 大人の沖縄」(技術評論社)などがある。
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