BW_machida
2020/12/31
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2020/12/31
厚生労働省のHPによれば、海外のある研究では2007年に生まれた日本人の半数が107歳より長く生きると推計されているらしい。と言うことは、現在老後を迎えた方々のお孫さんに当たる世代が100年時代を生きるようになるのだろう。
とはいえ、100年時代は遠い未来の話ではない。統計によれば、日本人の平均寿命は毎年0.19歳ずつ延びており、今50歳の方々の平均寿命は、男性87.3歳、女性94.5歳と、100歳に肉薄している。
「人生100年時代到来」などと、面白おかしく、かつ軽く悲劇的に語られるようになって久しい。40代までは、そんな話は全く耳に入ってこなかったが、それが50代、60代となると、もはや他人ごとではなくなった。知らぬ間に、誰が置いたか(恐らくは妻)リビングテーブルの端に、「正しい老後の過ごし方」などと題した本が置かれていてドキリとしたりする。
だからか、努めて自分からその手の本を読むことなどなかった私に、『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)なる老後本が舞い降りてきた。
その気が無くとも、書籍はもとよりTVのワイドショーなどから、まるでキャンペーンでも張っているかのように聞こえてくる「せねばならない」的な大合唱とは違う、「しなくていい」と提唱する(?)本書を恐る恐る開いてみた。
第1章 お金の心配、する必要はナシ!
第2章 サラリーマン脳は捨てよう!
第3章 夫婦で旅行なんて行かなくてもいい
第4章 地域コミュニティとは付き合わなくてもいい!
第5章 趣味がなくても一向に平気!
目次に並んだ章立てが心地いい!
正直、長年慣れ親しんだサラリーマン社会から離れ、それまでやや後ろ向きに接していた家庭や、地域社会との関係性の再構築を思うと気が重くなる。ましてや「足りない、足りない」と聞かされる老後資金はいかんともし難いし、長年連れ添った妻との関係性を考え直せと言われても困り果ててしまう。
しかし本書は、そんな目下の悩みを逆転させてくれる優れた提唱本だった。
老後資金の中核を成す年金は、いざとなった時のために国が積み立てている「年金積立金額」(4.9年分)を示して「絶対に破綻しない」と断言する。
そして、それまでのサラリーマン生活で培った「タテ社会のコミュニケーション能力」は捨てて、老後(定年後)必要となる「ヨコ社会のコミュニケーション能力」を培えと…。それも、生来「ヨコ社会のコミュニケーション」に長けている女性(奥様)に倣うのがいい、と提唱する。
そんな夫婦間のコミュニケーションこそが、老後を迎えた関係を円滑にする秘訣であり、決して熟年旅行などで補うものではないらしい。旅行に行くにしても行かないにしても、決してそれは男性の独断などではなく、奥様の希望を十分に取り入れたものであったほうがいい。
そして、町内会やマンションの自治会など、これまた大きなヨコ社会においては、それまで培ったタテ社会のコミュニケーション能力はおろか、タテ社会ならではの考え方など全く意味を成さないと、ここでもそれまで地域社会との関係性を構築してきた奥様の意見を取り入れた方がよいという。
最後は趣味。世の中の声はと言うと、「老後は趣味を持つべき」だったり「叶うなら夫婦共通の趣味を」などの一辺倒とも言える。果たしてそうだろうか。
「旅行」と言っても、温泉が良い人もいれば、海外へ行きたい人もいる。「映画」「読書」に至っては、それらのジャンルこそ多岐にわたる。
著者によれば、定年後の三大趣味というものがあるらしい。
定年後に多くのサラリーマンが始める「三大趣味」というものがあります。それは、「陶芸」「油絵」「山歩き」です。でも多くの人は、これらの趣味を始めても、たいがい途中でやらなくなってしまいます。まさに失敗のパターンの一つです。
と、世の「老後の趣味」提唱者に苦言を呈する。
とはいえ、そんな風に誰かに言われるまでもなく、もともと夫婦が似たような趣味を持っていたり、行きたいところが同じなら、それは僥倖と言うものだろう。これはもう悩む必要はない。著者が提唱する、“遊び”の年間計画書を作って夫婦で老後を謳歌すればよい。
このように、とかく暗いトーンで語られがちな老後を前向きに語ってくれる著者が、第6章で「これだけはやっておくべき」とするのが、「サラリーマン脳を捨てる」ことと「介護資金の計画」だが、これも頷ける。
そして極めつけは本書のラストを締めくくる第7章。
第7章 人生は60歳からが面白い
統計的には、年々0.19歳ずつ延びている日本人の平均寿命は、現在50歳の方々に至って男性が87.3歳、女性が94.5歳と、いよいよ100歳に手が届くようになるらしい。
だとすれば焦らず、のんびりと構えながら、これから100歳までの40年間をどうやって楽しもうか、どうやって自分の好きな生き方をしようかをゆっくり考えればよいのです。
とは言え、ゆっくり考えてばかりいると、「何かすることないの?!」「どこか行くところは無いの?!」などと、手厳しい言葉が降りかかるのも否めない。
しかし、この「何かしなければいけない」というステレオタイプの考え方こそ捨てなければならないらしい。
そして加えて重要なのが、アンチエイジングという間違いだと著者は警鐘を鳴らす。
誰しも老いれば若さに憧れを抱く。少し体を動かせば「昔はもっと動けた」と思うし、「なんでこんなこともできなくなってしまったんだろう」と老いを嘆くことも毎度のこと。
けれども、どれほど老いを嘆いてみても、どれほど若さに憧れてみても、こればかりはどうしようもない。
もちろん、老いの進み方は人によって様々ですから、70歳や80歳になっても決して無理することなく、若い人に交じって活発に活動できるのであれば、それはおおいに結構なことでしょう。ただ、無理は禁物です。加齢に抗うことはしない方がよいということです。
老後は必要以上に悲観的に考える必要はありませんが、さりとて「老後はバラ色」という楽観的な幻想を持つのも禁物です。楽観でも悲観でもなく、「老後」を淡々と受け入れることです。
「アンチエイジング=老化に抗う」ではなく、「アクセプトエイジング=老化を受け入れる」(これは私が勝手に作った言葉です)という考え方が大切ではないでしょうか。
と締めくくる本書『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)は、各メディアが大合唱する老後不安を解消してくれる、とても心強い高齢者の味方本だった。
文/森健次
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