なぜ現代社会は警備業を必要とするのか?
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「警備業の研究」を行っている学者がいる。
それは、仙台大学体育学部の田中智仁氏である。

 

なぜ、警備業の研究なのか。

 

近刊『警備ビジネスで読み解く日本』(光文社新書)から抜粋しつつ、その過程を紹介したい。

 

田中氏は、18歳になるまで警備業とは無縁の生活を送っていた。大学1年生になった2001年の夏に何かアルバイトを始めようと思ったところ、「ピシッと制服に身を包んで、凛々しく振る舞える仕事がいい」と決心。警備員の求人広告に目を付ける。

 

しかし、面接で最初の試練が訪れたという。
面接官は田中氏の履歴書を見て、「満18歳ですよね」と生年月日を詳しく確認、また、「未成年だったら少年法で守られているとは思いますが、窃盗とか、違法薬物に手を染めたことはないですか?」と質問されたという。

 

思いもよらない面接での質問に、田中氏は言葉に詰まる。

 

理由はこうだった。田中氏は後から知ったが、「警備業法」で警備員の欠格要件というものが定められていたのだ。つまり、警備会社は警備員の採用にあたっては厳しくチェックする必要があった。

 

ちなみに警備員の欠格要件とは、

 

1.成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない人
2.禁錮以上の刑に処せられて、執行が終わった日、または執行を受けることがなくなった日から5年以内の人
3.最近5年間で警備業法や警備業務に関連する法令に違反した人
4.集団的または常習的に暴力的不法行為などを行うおそれのある人
5.暴力団対策法による命令や指示を受けてから3年以内の人
6.アルコール、麻薬、覚醒剤などの「中毒者」(条文ママ)
7.心身の障害により警備業務を適切に行うことができない人
8.18歳未満の人

 

の8点である。
「まっとうな人生」を歩んでいれば基本的に警備業務に就くことは可能だが、事業の失敗で破産して復権できない人、お酒が大好きでアルコールを手放せない状態になっている人、心身の障害があって警備業務が実施できそうにない人などは警備業務に就くことはできない。

 

話を元に戻そう。

 

採用が決まった後、田中氏は警備員デビューの日を迎える。

 

担当は神奈川県内の建設現場でのコンクリートミキサー車のバック誘導。大型車両の迫力に負け、「オッ、オーライ、オーライ……スス、ストップ」と震える小声しか出なかった。合図もぎこちなく、運転手には伝わらない。車は容赦なく田中氏に迫ってくる……警備員のリーダーが間に入って事故には至らなかったものの、「オメエ、やる気あんのか」と怒鳴られる始末。
しかも、朝の8時から夜の10時まで、ひたすら立ち続ける現場だったため、足も棒のようになった。
その後も、工事現場に立てば暑さ寒さの中で「うるさい、迷惑だ、バカ野郎」等のクレームの嵐。商業施設に立てば「忘れ物をしたから探せ」「トイレはどこだ、案内しろ」と小間使いをさせられる。「こんなはずじゃなかった」と悶々とする毎日を送る。

 

そんな矢先、警備業界を震撼させる事故が発生する。
それは、2001年7月に起きた「明石歩道橋事故」である。兵庫県明石市で開催された花火大会で大規模な雑踏事故が発生、多くの死傷者を出した事故だった。

 

田中氏にとってこの事故は他人事ではなく、「制服を着る重み」を再確認させられる出来事だったという。

 

「理想と現実」のギャップに直面した田中氏は、このとき、「警備業とは何か、なぜ現代社会は警備業を必要とするのか」という疑問にぶつかった。

 

この疑問から、田中氏は警備業に関する研究をスタートさせた。

 

その結晶の一部が、前述した本に網羅されている。

 

知っているようで知らない警備ビジネスの一端に触れてみてはいかがだろうか。

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警備ビジネスで読み解く日本

警備ビジネスで読み解く日本

田中智仁(たなかともひと)

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