2019/05/20
金杉由美 図書室司書
『続・横道世之介』中央公論新社
吉田修一/著
また逢えたね、世之介。
あの「横道世之介」の、まさかの続編が出た。
世之介は相変わらずだ。
流されやすくて、頼りなくて、要領いいんだか悪いんだかわからなくて、ぼーっとしていて、いい加減なくせに妙に慎重で、空気読めなくて、優柔不断で、けれど間違いなく善良。
世之介に関わった連中はみんな彼が好きだ。
何年たっても何十年たっても
「あいつ、いいヤツだったよな」
「あいつと遊んでた頃は楽しかったな」
なんて、ほっこり思い出したりする。
そして
「だけど、あいつはもういないんだよな」
なんて、ちくっと胸を痛めたりする。
そう、世之介はもういない。
前作では、彼の学生時代の一年間とその死が描かれた。
続編では、フリーター暮らしの一年間が描かれる
たった一年だけど、とても濃密な一年。
泣いて、笑って、出会って、別れて。
人生の一番底にいた一年。あとは浮かび上がるだけの一年。
「最悪っちゃあ最悪だったけど、思い返してみると、わりと楽しかった」
「人生のスランプ、万々歳」
そんなのんきなこと言っちゃう世之介は、やっぱり悪い方向にポジティブ。
そして、それから四半世紀あまり後の出来事も語られる。
時は流れて、あの年に蒔かれた種がそれぞれ大きな木に育っている。
でも、世之介はもういない。
世之介が死んでも、世界は終わらない。
世之介が死んでも、みんな彼を忘れない。
だったら。
それなら。
世之介、死んでないのと同じなんじゃないの?
どこかでのほほーんと生きているんじゃないの?
相変わらずのあの感じで。
誰かに惚れたりしょげたり浮かれたりしながら。
同級生が白髪になっても、昔の彼女に孫が出来ても。
フーテンの寅さんみたいに、ちょっと旅に出ているだけなんじゃないかな。
誰かに覚えていてもらえるなら、人は永遠に生きていけるんじゃないかな。
そんな気がする。
ある大切な時代を一緒に過ごした仲間は、その時間と共に記憶の中で真空パックのように保存されているんだから。
今はもうどこにもいないんだとか言われても納得できない。
思い出の中では人は決して死なない。たまたま少しの間離れていて逢えないだけ。
いつかまたきっと逢える。あの懐かしい笑顔はいつまでも変わらないはずだ。
横道世之介は不滅です。
また逢おうね、世之介。
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吉田修一作品の中でも最もエンターティメント色の強い一冊。
ある意味、「横道世之介」の対極にあるといっても過言ではない。
だって「スパイ大作戦」だし、コレ。
主人公の鷹野一彦も世之介と対極にあるキャラクター。
個人的には「いつか死んじゃうんだろうけど死んでほしくない」キャラ選手権ベスト3に入る。
『続・横道世之介』中央公論新社
吉田修一/著