チェバプチチ、パルサミ、セスワ……。日本のスーパーの食材だけでできる、世界の3分クッキング。

金杉由美 図書室司書

『世界の郷土料理事典』誠文堂新光社
青木ゆり子/著

 

 

レシピを読んでキッチリと料理をするのが苦手だ。
たいてい途中でくじける。下手したら手順と材料を確認する段階でくじける。
一念発起して調理しはじめても、途中から適当に切って適当に煮炊きして適当に味付けるので、結果的に全然違うものに仕上がったりしがち。
そもそも、ちょっとくらい何か足りなかったり多かったりしたって、とりあえずソレっぽく出来上がればいいじゃない。そうじゃない?
でも一度も食べたことがない料理は、この方法では作れない。
「ソレっぽく」の「ソレ」がわからないから。
だからエスニック料理は相当敷居が高かった。
食べたことない食材を揃えて、なじみのない調味料を使って、しかも正確に量らないとならんのか。うん、ちょっといろいろ無理。

 

この「世界の郷土料理事典」も、料理の実用書としてではなく、眺めて楽しむ読み物として手に取った。
アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、オセアニア。
ありとあらゆる国の料理と食文化が紹介されている、カラー写真満載で、コンパクトながらずっしりとした一冊。

 

パラパラと読み始め、アジアとかなら身近だよねーとあなどっていたらとんでもなかった。
インド・ネパール・スリランカなど、ここ数年で日本でも増えてきたカレー系の国なら何とか見当がつくけれど、キルギス・ブルネイ・トルクメニスタンなんてどこにあるのかさえ正確には知らない国まで登場。まるでオリンピックの開会式のようだ。
おお、日本が出てきた!と思ったら、紹介されているのは「ぱすてぃ」「オハウ」「ヒラヤーチー」…なんですかソレ。
ちなみに「ぱすてぃ」は長崎の卓袱料理、「オハウ」はアイヌ料理、「ヒラヤーチー」は沖縄の料理らしい。
アジアですでにそんな具合だから、中東とかアフリカなんて未知の料理ばかり。作るどころか見たことも聞いたこともない。料理名の発音すら発音し難い。「ンディオ」とか「ン」で始まる料理名って反則じゃないのか。

 

でも、待てよ?
レシピをよくよく読むと、材料としてあげられているのは肉も野菜も調味料も普通に日本のスーパーで買えるものばかり。現地でないと手に入りにくい食材は日本でも身近な食材に置き換えられるように工夫されている。調理の手順も文字数にして300字くらい。
なんだか…作れちゃいそうじゃない?
例えば、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの「チェバプチチ」は、牛ひき肉と玉ねぎに炭酸水を混ぜて焼くだけ。
キリバスの「パルサミ」は、玉ねぎをココナツミルクなどで調味してホウレン草で包んでアルミホイルでくるんで焼くだけ。
ボツワナの「セスワ」は、牛肉を塩茹でしてほぐして茹で汁かけるだけ。
最近巷で話題になったジョージアの「シュクメルリ」は、焼いた鶏肉をバター・にんにく・牛乳・スープで煮るだけ。
あらやだ…本当に?
3分クッキングなみのお手軽さ。
ややこしいのは料理名だけじゃないですか。
俄然やる気が出てきた。
「世界の郷土料理事典」、実用的なレシピ本としても使える優れものかも。
全然違うものに仕上がっちゃっても、そもそも食べたことないからソレっぽいかぽくないかすらわからないので無問題だと思う。うん。
今日の晩御飯はマダガスカルの「バリ・アミナナナ」(要するに青菜入り汁かけご飯)にしてみようかな。

 

こちらもおすすめ。

『ソウルフード探訪』平凡社
中川 明紀/著

 

果たしてソウルフードとはなんぞや?美味しそうなものから微妙なものまで、世界中の人たちの故郷の料理を求め、東京をかけめぐり食べまくるルポルタージュ。
おふくろの味のむこうに多様な文化が見えてくる。

 

『世界の郷土料理事典』誠文堂新光社
青木ゆり子/著

この記事を書いた人

金杉由美

-kanasugi-yumi-

図書室司書

都内の私立高校図書室で司書として勤務中。 図書室で購入した本のPOPを書いていたら、先生に「売れている本屋さんみたいですね!」と言われたけど、前職は売れない本屋の文芸書担当だったことは秘密。 本屋を辞めたら新刊なんか読まないで持ってる本だけ読み返して老後を過ごそう、と思っていたのに、気がついたらまた新刊を読むのに追われている。

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