akane
2020/05/29
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2020/05/29
■『女殺油地獄』(映画 1992年)
製作:松竹/プロダクション:京都映画/監督:五社英雄/脚本:井手雅人/原作:近松門左衛門/出演:樋口可南子、堤真一、藤谷美和子、井川比佐志、岸部一徳 ほか
破滅的な若者の生き様を描いた近松門左衛門の戯曲を、監督の五社英雄と脚本の井手雅人は大きくアレンジし、若い男女に嫉妬の炎を燃やしてしまった女の破滅の物語として捉え直している。
樋口可南子扮するお吉の刺殺体の足元が油にまみれて妖しく光る冒頭からして、むせるような臭いが、画面を飛び越えて早くも漂ってきている。
お吉は遊び人の油屋の若旦那・与兵衛(堤)の乳母(うば)をしていたことから、今でも母親のように接している。
だが、与兵衛の若い肉体を見ているうちに、段々と「男」として見てしまうようになっていく。
大人としての落ち着きを見せようと、ひたすら感情を殺し続ける様が物語の前半を通して描かれた。
それでも、たとえば黙々と米を研ぐ樋口のほつれた髪や汗ばむ首筋が映し出されるなど、日常の中のディテールの描写を積み重ねることで、五社は女としての抑えきれない燻る想いを伝えている。
与兵衛は若い魔性の女・小菊(藤谷)に惚れきっていて、その掌で転がされ続けた挙句、駆け落ちや無理心中の騒動まで起こしてしまう。
これ以上、与兵衛を惑わさないでほしいと懇願するお吉を、小菊は嘲笑う。
小菊は、若い二人の関係に嫉妬するお吉の心情を読みとっていたのだ。
この時、初めて樋口の顔がアップで映し出される。
そこには、これまでの繕(つくろ)った作り笑いの消えた「女の顔」があった。
決意を固めたお吉は舟宿に与兵衛を招き、誘惑する。
「小菊みたいな女にアンタを好きにされるの嫌や……抱いて」。
そう言って着物を脱ぐお吉。たまらなくなり、抱きつく与兵衛。
「かんにんしてな、こんなにしてもうて」
「可愛い坊を年上のワテが……」
言葉とは裏腹に、男と女は激しく絡み合う。
だが、それ以上にエロチックな印象を残したのは、帰宅してからのお吉の描写だ。
土間でお吉は水を飲むのだが、この時、はだけた裾から覗く足先や艶めかしいウナジのラインが映し出され、女が再び「性」に目覚めた様を巧みに表現しているのだ。
五社の女性を見る視点の見事さに驚かされる作品だ。
【配信】アマゾンプライムビデオ、Hulu、iTunes、スカパー!オンデマンド、ひかりTV
(2020年5月現在)
●この記事は、6月11日発売予定の『時代劇ベスト100+50』から引用・再編集したものです。
『時代劇ベスト100+50』
春日太一/著
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