akane
2019/05/21
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2019/05/21
今週は、今季もセ・リーグで強打を発揮している巨人の坂本勇人について話したい。
開幕から絶好調の坂本は5月19日現在で打率.327(リーグ3位タイ)13本塁打(同1位タイ)31打点(同3位タイ)OPS1.001(同3位タイ)の好成績を残し、一時は打撃三部門でトップにも立った。途切れてしまったものの、開幕から36試合連続出塁のセ・リーグ新記録を樹立した。これは32試合の長嶋茂雄、33試合の王貞治を抜き、97年に金本知憲(広島・当時)が記録した35試合を超える偉業である。
06年の高校生ドラフト1巡目で光星学院高校から巨人に入団した坂本。2年目に当時の正遊撃手だった二岡智宏の故障などでチャンスを掴むと、144試合にフル出場してレギュラーに定着し、その後10年以上に渡って高い守備貢献と打力を発揮してショートのポジションを守り続けている「天才」である。守備と打撃の総合力でみれば、NPB史上最高のショートと言っていいだろう。
坂本の当初の打撃スタイルは、インコースのボールをうまく腕を畳んで引っ張ることができるプルヒッターであった。その分ポップフライも多く、批判を受けたこともあったが、2010年には31本塁打を放つなど長打力も秘めている。
個人的にはそのスタイルを伸ばして.290 40本を打つような大型ショートになってほしいという思いを持っていたが、2011年に統一球が導入されたこともありホームランを16本に半減させると、坂本は広角打法を目指したのか、反対方向への打撃に取り組みだした。
2012年以外は.270 15本前後の打撃成績にとどまり(ショートとしてはもちろん優秀なのだが)、「#お股本」的に言えば.300 20本のオールラウンダーを目指すあまり.260 15本にまとまってしまったイメージで、残念に思う気持ちもあった。
すると2015年のオフ、本人も危機感があったのだろう、日本代表で一緒になった他球団の一流打者のフォームを参考にするなどして打撃フォームの改造に取り組むと、2016年は打率.344でセ・リーグのショート史上初の首位打者に輝いた。
その後は打者として「格」が上がり、昨年も.345の高打率を残し今季もこの好調ぶりである。以前のプルヒッターの打撃スタイルではなく、現在はライト方向にも広角に打てる「スプレーヒッター」に変わっており、今季はセンター方向への打球も増えて私が理想だと考える「センター返しを中心とした8割の力感」を体現しつつある。
その分、以前と比べてインコースをうまく引っ張る打球は減っているが、打者としてより洗練されており、広角に長打も安打も打てて、選球眼も良い「理想の2番打者」(すなわち、日本のこれまでの理想の3番打者)に変貌を遂げている。
また、今季の好成績は広島から加入した丸佳浩の影響も当然ながら大きい。後ろに丸が控えて坂本を「プロテクト」することが可能となったので、相手バッテリーは厳しいコースで攻めたり、ボール球で勝負したりしにくくなっている。坂本、丸、岡本と打者が続くと投手は気を抜けず、神経をすり減らしていることだろう。巨人打線の好調にはこうした理由もあると思われる。
一般的に、野球選手のピークは28歳前後と言われる。身体能力は落ち始めるが技術や経験が増してくるその頃が、最も活躍できるのだろう。
しかし、坂本のような「高卒天才打者」の全盛期は30~31歳だという説もある。
坂本勇人(30歳)は昨季キャリアハイの打率.345
イチロー(31歳) 打率.372、MLB記録の262安打
張本 勲(30歳) 打率.383、OPS1.116 自己最高
川上哲治(31歳) 打率.377、OPS1.031 自己最高
榎本喜八(31歳) 打率.351、OPS1.011 自己最高高卒安打製造機の30~31歳
体力・技術・経験が最も調和するピーク説— giants rec (@giants_rec) 2019年4月13日
松井秀喜も30歳のシーズンにMLBで最多の31本塁打、翌年に最高の.305を記憶しており、体力・技術・経験が調和するこれくらいの年齢が打者として最も円熟味が増すのかもしれない。
一方で、坂本も守備や走塁の面ではおそらくピークが過ぎたと思われる。
若い頃の坂本の守備は、広い守備範囲や強肩を誇っていてポテンシャルが高かったものの、まだミスも多く、(守備範囲が広い分だけ余計に)エラーや送球ミスも目立ち、批判されることも多かった。
その後「守備の達人」である宮本慎也(現・ヤクルトコーチ)に弟子入りしたり、巨人へ移籍してきた井端弘和氏のアドバイスを受けたりして技術を磨いていくと、元々の広い守備範囲や強肩に正確性が加わり、2015年に守備の全盛期を迎えてスーパープレーを連発。UZR(Ultimate Zone Rating)という代表的な守備指標でもセ・パ両リーグを通じてトップとなる驚異の32.3を記録した。
30歳となった現在では当時と比べ脚力が落ちてきており、(まだまだ広いとはいえ)守備範囲も徐々に衰えが見られる。正確性やグラブさばき、柔らかさ、経験などでいかに補っていくか、というフェーズに入っている。走塁の指標も今季は低迷しているようである。
守備のピークは脚力などが落ちる前の20代後半に来て、
坂本は、私が大好きなグレッグ・マダックスの「パーフェクトではなくグッドを目指せ。完璧を目指しすぎるとかえって悪くなる」のような総花的な思考ではなく、パーフェクトを目指して一時はグッドにとどまるも、その壁を打ち破り、洗練された広角打法、バレルゾーンを感じさせる技術とパワーの融合を見せ、パーフェクトな領域に到達しつつある。
「打撃最強2016~19年ver坂本勇人」と「守備最強2014~15年ver坂本勇人」の両方を目撃できた我々は幸運なのかもしれない。
プロ野球選手としては細身で、負担の大きなショートを守っているため、下半身へのダメージや疲労から夏場に打撃成績を落とすことも多い坂本。今シーズンにキャリアハイの成績を残し、MVPを獲得できるかはこれからの時期にかかっている。広島・鈴木誠也とのハイレベルな三冠王、MVP争いを期待したい。
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