akane
2019/02/22
akane
2019/02/22
Genre: Soul, Funk, Rock, Jazz
Innervisions – Stevie Wonder (1973) Tamla, US
(RS 24 / NME 42) 477 + 459 = 936
Tracks:
M1: Too High, M2: Visions, M3: Living for the City, M4: Golden Lady, M5: Higher Ground, M6: Jesus Children of America, M7: All in Love Is Fair, M8: Don’t You Worry ‘bout a Thing, M9: He’s Misstra Know-It-All
彼にとって16枚目のスタジオ・アルバムである本作は、批評家、あるいは音楽マニアのあいだでとりわけ評価が高いスティーヴィー・ワンダーの名作だ。
このときのワンダーは、前作からのカットである、邦題を「迷信」「サンシャイン」とする2曲のシングルが全米1位のヒットとなったばかりだった。そんな状況下の彼が、大半を「たったひとりで」作り上げたアルバムが本作だ。
具体的に言うと、M3、M5、M6は全楽器もヴォーカルもワンダーがひとりでやっている。M1、M7、M8、M9も、基本的には「彼ひとり」で、ベースやボンゴ、コーラスなど、一部だけを「手伝ってもらって」仕上げた。つまり、全9曲のうち7曲は「ワンダーづくし」なのだ。まるでザ・ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』(66年)をブライアン・ウィルソンがひとりで録ってしまったかのように。
これはソウル音楽では、きわめてめずらしいことだった。しかし彼には(彼だけには)前例があった。前々作の『ミュージック・オブ・マイ・マインド』(72年)がそれだ。このときに最大の助けとなったのは、イギリス人の音楽家/プロデューサーのマルコム・セシル率いるトントズ・エクスパンディング・ヘッド・バンドによる「シンセサイザー調整」だった。モーグやアープといったアナログ・モジュラー・シンセを操ることにかけて天下一品の彼らの助力によって、スタジオ内のワンダーは八面六臂の活躍が可能となった。このときの体験を、「スターとなったあと」の彼が再現しようとして、そして、かつてなかったほどの規模で成功させたのが本作だ。
タイトルどおり、ここに並ぶナンバーは、彼の「内的ヴィジョン」をあらわしている。だから歌詞における政治的、社会的ステイトメントも明確になった。ドラッグ問題を歌ったM1、黒人へのアメリカ社会の構造的差別を射抜くM3などの名曲を生んだ。こうしたナンバーと同時に、グルーヴィーにして美しいバラッドのM4が並ぶところに、新時代のソウルのあるべき姿を見る者がいた。それが支持につながった。
派手なシングル・ヒット(「迷信」のような)がないことを批判する声も、当初はあったという。しかしアルバムは着実にセールスを重ね、その後の彼の芸術的基盤となる地平を確立する。これが次々作『ソングス・イン・ザ・キー・オブ・ライフ』(59位、76年)の大爆発へとつながっていく。
次回は14位。乞うご期待!
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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