akane
2019/04/22
akane
2019/04/22
Genre: Soul, R&B
What’s Going On – Marvin Gaye (1971) Tamla, US
(RS 6 / NME 25) 495 + 476 = 971
※7位、6位の2枚が同スコア
Tracks:
M1: What’s Going On, M2: What’s Happening Brother, M3: Flyin’ High (In the Friendly Sky), M4: Save the Children, M5: God Is Love, M6: Mercy Mercy Me (The Ecology), M7: Right On, M8: Wholy Holy, M9: Inner City Blues (Make Me Wanna Holler)
ソウル音楽の「史上最高傑作」とまで呼ばれることが多い、そんなアルバムがこれだ。本作は、アメリカのソウル音楽界を代表するアーティストのひとり、マーヴィン・ゲイの、11枚目のスタジオ作となる。
彼は卓越したシンガーだった。4オクターブの声域で、グロウル(うなり声)から「シルキー」なファルセットまで、自由自在に駆使した名唱は、60年代から多数あった。ソングライターとしてもヒット曲を多く手掛けていた。そんなゲイが、初めてセルフ・プロデュースしたアルバムがこれだ。
タイトル曲であるM1、「ホワッツ・ゴーイング・オン」。もしあなたがこの曲を聴いたことがないのなら、悪いことは言わない。「いますぐに」聴いてみるべきだ。本作が「ソウルの最高峰」であることを具体的に実証できる、名曲中の名曲だ。
日本語にすると「どうなってんだよ」あるいは「なにが起こってんだ」といった意味のタイトルを持つこのナンバーは、プロテスト・ソングとして大きな支持を得た。このときまだ継続中だったヴェトナム戦争に徴兵され、任務を終えて帰還してきた実弟から聞いた話がゲイを揺り動かした。だから彼は反戦を歌った。戦争の是非を巡って二分された国内の「惨状」や警官の暴力にもゲイは心を痛めた。
とにかくこの曲は、美しい。プロテスト・ソングなのに――いや、だからこそ――直接的ではあっても、情動の奔流「ではない」抑制的なトーンのコントロール下にある。これは慈愛と「哀しみ」のトーンだ。「なぜ」殺し合うのか。「なぜ」憎しみ合うのか。「なぜ」我々全員は、その愚かなる連環から、逃れることができないのか……こうした問いへの「答え」は、歌のなかにはまったく「ない」。ただひたすらに根源的な「問い」だけが、そう、まさにディランの歌よろしく「風のなかを舞っている」。この、見事なるサウンド・プロダクションという「風」のなかを。
ストリングス、ホーン・セクション、そしてモータウンが誇るスタジオ・ミュージシャン集団「ファンク・ブラザーズ」が、ゲイの指揮のもと構築した、重層的かつ、壮大にして繊細な音空間のなかを、彼のふくよかなヴォーカルが抜けていく……「流麗」という言葉は、こんな音楽のためにこそある。「ホワッツ・ゴーイング・オン」は、そんな1曲だ。まずはシングルにて、大ヒットを記録する。
(後編に続く)
※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。
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